大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和41年(行コ)35号 判決

東京都武蔵野市関前五丁目一、一二〇番地

控訴人

山口光三

被控訴人

武蔵野税務署長

西山要三

右指定代理人法務省訟務局第五課長

横山茂晴

法務事務官 長谷川謙二

大蔵事務官 武内正人

吉本宏

右当事者間の課税処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、昭和四一年一〇月一二日に終結した口頭弁論に基づき、左のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴審での訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。控訴人の昭和三九年度分所得税について、被控訴人が控訴人に対し昭和四〇年一一月三〇日付をもつてした無申告加算税金額一一七、〇〇〇円及び同年一二月二五日付をもつてした延滞税金額五〇、七七〇円の各賦課決定処分を取消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人らは、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の法律上及び事実上の主張、陳述は、原判決の事実摘示の記載と同一であるから、これを引用する。

理由

控訴人主張の無申告加算税賦課決定処分について

次の事実は、いずれも、当事者の間に争いがない。すなわち、控訴人は昭和三九年一一月二六日訴外柏木喜美子との間において、控訴人の所有土地二〇〇坪(約六六一・一五七〇平方メートル)を代金一、五〇〇万円で同訴外人に売渡す旨の売買契約を締結し、同日同訴外人から金一五〇万円を受領し、昭和四一年一月一七日残金一、三五〇万円を受領するのと引換に同訴外人に対し右売買による所有権移転登記を経由した。被控訴人は右売買契約の日に資産の譲渡が行われたものとし、従って、控訴人の右資産譲渡にかかる昭和三九年度分所得税の申告は昭和四〇年三月一五日の申告期限を徒過したものとして控訴人に対し、昭和四〇年一一月三〇日付をもって、無申告加算税額金一一七、〇〇〇円の賦課決定処分をなした。控訴人は右賦課決定を不服として昭和四〇年一二月八日被控訴人に対して異議の申立をしたが、被控訴人は昭和四一年四月五日付決定をもつて右申立を棄却した。しかし、控訴人は、右棄却決定について東京国税局長に対する審査の請求をしなかつたので、その裁決を経ることがなかつた。

控訴人は、右無申告加算税賦課決定処分の取消を求めるのであるが、右処分については、国税通則法第七六条第一項の規定によつて異議申立をすることができ、これに対する決定を経た後なお不服があるときは、同法第七九条第三項の規定により所轄の国税局長に対して審査請求をすることができるものと解すべきところ、控訴人が右処分について異議の申立をしたのみで審査請求についての裁決を経ることがなかつたことは前記のとおりである。しかるに国税通則法第八七条第一項の規定によれば、審査請求をすることができる処分については、同項各号の一に該当する場合を除き、審査請求についての裁決を経た後でなければ、その取消しを求める訴えを提起することができないものとされており、右除外事由が存することについては、控訴人はなんらの主張も立証もしないところである。審査請求をしても、これに対する裁決の結果が予測されるというような事情があるとしても、それだけで裁決を経ないことにつき正当の事由があるものということができないことはもちろんで、控訴人が前記異議申立に対する棄却決定を受けた後に遅滞なく本件訴えを提起した事実を併せ考えても、控訴人が審査請求をし、その裁決を経なかつたことにつき正当の事由があるものとは、とうてい認め難い。従つて、控訴人の右無申告加算税賦課決定の取消しを求める訴えは、訴え提起の要件を欠き不適法といわざるを得ない。

控訴人主張の延滞税賦課決定処分について

被控訴人が、控訴人の昭和三九年度分所得税につき、上記のとおり無申告加算税の賦課決定処分をしたほか、昭和四〇年一二月二五日付をもつて控訴人に対し延滞税金額五〇、七七〇円の納付催告をなした事実は、本件口頭弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる。控訴人は、右納付催告をもつて延滞税の賦課決定処分がなされたものとして、その取消を求めるけれども、延滞税納付義務は、本税について納期限を徒過したときに、特別の手続を要しないで成立発生し、その額も確定するものであるから、その納付催告は税の賦課処分であると解することはできない。もとより右納付催告に先行してなんらかの賦課処分がなされるものと解しなければならないものでもない。従つて、これをもつて行政事件訴訟法第三条第二項にいう処分と解することはできないから、控訴人の右訴えは、結局対象たる処分が存しないものというほかはなく、不適法たるを免れない。

よつて、控訴人の本件訴えは、いずれも不適法であつて、これと同趣旨で右訴えを却下した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項によりこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 吉田豊 判事 江尻美雄一 判事 園田治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例